関節リウマチ
関節リウマチとは、免疫の異常により関節に炎症が起こり、関節の痛みや腫れが生じる病気です。進行すると関節の変形や身体障害を来たします。原因は未だ不明ですが、遺伝的要因や環境要因(喫煙や歯周病など)の関与が報告されています。関節の変形を残さず、支障なく日常生活を送るためには、なるべく早期に診断し、適切な治療を受けることが大切です。
診断にはリウマチ医による関節の診察や血液検査、画像検査が必要です。画像検査としては、レントゲン検査のほか、最近では関節エコー検査(図)やMRI検査が行われており、当科では臨床および研究にそれらを活用しています。
関節リウマチの治療はここ20年で大きく進歩しました。特に生物学的製剤やJAK阻害薬の登場により、患者さんの予後(病状の経過)は格段に改善されました。しかし、現時点では、どのような患者さんにどの薬剤を使用するべきか(個別化医療・精密医療)予測することは困難です。
当科では原因究明や早期診断、個別化医療・精密医療を目指して、患者さんの協力を得て、海外や全国の医療機関とも連携し、基礎研究や臨床研究を進めています。(文責:川尻真也)
全身性エリテマトーデス
全身性エリテマトーデス(SLE)は自己抗体と免疫複合体の血管壁、組織の沈着により、種々の臓器障害を引きおこす自己免疫疾患です。初期症状となる発熱、関節炎、倦怠感などの非特異的なものから腎炎や中枢神経症状などの臓器障害まで多彩な病像を呈します。ここ30年でステロイドや免疫抑制剤によりSLE患者の生命予後は改善しましたが、いまだに治療薬の副作用によって命を落とすこともあります。
当科ではこれまで、SLEの病態解明研究として、SLE患者のT細胞のシグナル伝達物質を介したサイトカインやリンパ球活性化機構について取り組んできました。またループス腎炎では腎臓局所のメサンギウム細胞や糸球体上皮細胞(ポドサイト)の機能的制御についても検討を行ってきました。さらに神経精神ループスにおいては髄液中の特異的自己抗体の同定にも取り組み、炎症性サイトカインを誘導することを証明しました。SLE多施設共同研究(LUNA)にも参画し、日本のSLEコホートからのエビデンス創出にも貢献しています。(文責:一瀬邦弘)
強皮症
強皮症とは、全身の皮膚が硬くなる(線維化する)原因不明の病気です。その中で全身性強皮症では皮膚に加えて、内臓諸臓器が線維化し、様々な臓器病変を引き起こします(肺、食道、大腸など)。また、線維化に加えて血管障害も全身性強皮症の特徴であり、指先など末梢の循環障害、皮膚潰瘍や肺高血圧症などが起こることもあります。
治療としては末梢循環障害や軽い皮膚硬化のみの方などは対症療法で問題ないこともありますが、様々な臓器病変が出現した際や皮膚硬化が重度・進行が速い方などは免疫抑制剤による治療をおこないます。近年では線維化を抑える薬も登場しており、その線維化抑制効果に期待されています。我々の研究室では、この原因不明な強皮症の病態解明につながる研究を行なっており、近年では血液中の単球という細胞の背景が全身性強皮症の患者さんでは異なっていることを見出し、さらなる解析を現在すすめています。また、その他、免疫複合体解析という手法を用い全身性強皮症の発症や増悪に関連している分子の同定などの研究も行っております。
全身性強皮症は難治性の原因不明の疾患であり、上述した免疫抑制療法の効果も限定的です、我々はこれらの研究を通して全身性強皮症のより最適な治療の開発の一助となればと思い研究を続けております。(文責:岩本直樹)
多発性筋炎/皮膚筋炎
多発性筋炎/皮膚筋炎は主に四肢・体幹の筋肉に炎症が生じ、筋力低下や筋痛をきたす疾患です。皮膚筋炎では筋肉の症状以外に特徴的な皮疹を認めます。近年、多発性筋炎/皮膚筋炎は特発性炎症性筋疾患の亜分類として表現されることがあります(特発性炎症性筋疾患の中には他にも免疫介在性壊死性筋症や封入体筋炎などが含まれています)。
診断のためには診察所見(筋力低下や皮膚症状)、特徴的な血液検査(CKなどの筋原性酵素の上昇、自己抗体)、筋炎を反映する客観的な検査所見(筋MRI、筋電図、筋生検で筋組織を採取し炎症の評価)等をおこない総合的に評価していきます。加えて筋肉、皮膚以外にも間質性肺疾患や悪性腫瘍などの内臓病変をしばしば合併するため、あわせて精査する必要があります。
治療に関しては副腎皮質ステロイドや各種免疫抑制剤などの免疫抑制療法が中心となりますが、筋症状の重症度や合併する内臓病変の重症度・進行度に応じてその治療強度は異なります。そのため、その重症度・進行度を見越して適切な強度の治療をおこなうことが重要ですが、重症化また進行しやすい患者さんの特徴や免疫メカニズムはまだ明らかにされていない部分も多く、その解明が大きな課題となっています。
筋肉の炎症
間質性肺疾患
病状の進行や重症度と関連する
バイオマーカー、免疫応答の解明
当科では主に筋症状、間質性肺疾患の重症度・進行度に関与する免疫メカニズムを解明するため患者さんからいただいた検体や動物モデルを用いた研究を進めております(図)。また全国多施設でのレジストリ研究を企画・参画し、本疾患の病態解明に向けて努めております。(文責:清水俊匡)
疾患に関しては「難病情報センター」も参照ください。
シェーグレン症候群
シェーグレン症候群は主に涙腺、唾液腺に炎症が起こることで涙液、唾液が減少し、ドライアイ、ドライマウスといった乾燥症状を引き起こす疾患です。また乾燥症状以外にも疲労感、倦怠感、関節痛や肺、腎臓、神経など全身様々な病変をきたすことがあります。
診断するために、涙液、唾液分泌量、眼乾燥にともなう眼の異常所見、血液検査(自己抗体陽性など)、画像検査、唾液腺の炎症所見の有無など複数の項目を評価する必要があります。唾液腺の炎症を評価するためには口唇に存在する唾液腺の一部を採取し、病理検査をおこなう必要があります。当科では唾液腺採取のための口唇生検を含め診断に必要な検査をおこない、適切な診断ができるよう努めております。
シェーグレン症候群は免疫の異常で起こりますが、まだ病因や病気のメカニズムはわかっていないことも多く、治療に関しても症状を緩和する治療が中心であり、根本的な治療法は解明されていません。
当科では本疾患の病因や病気のメカニズムを明らかにするため、診断のために採取した唾液腺の一部をご提供いただき、免疫異常にかかわるシグナルの役割などについて基礎的研究を進めております(図)。また厚生労働省自己免疫疾患に関する調査研究班のシェーグレン症候群分科会会長である川上純教授を中心にシェーグレン症候群の診療ガイドラインの改訂、疾患の特性を明らかにしていくための全国レジストリ研究を進めております。加えて、国際共同のコホート研究にも参画し、シェーグレン症候群の新たな知見を築けるよう努めております。(文責:清水俊匡)
シェーグレン症候群に関して「難病情報センター」も参照ください。
IgG4関連疾患
IgG4関連疾患は2010年日本で命名された新しい疾患概念です。日本全体で約1~2万人と推定されています。高齢者に多く、男女比は、頭頚部が1.6:1で、他は4:1と報告されています。血清中のIgG4値が高いこと、全身の諸臓器へIgG4陽性の形質細胞が浸潤し、腫瘤や肥厚した病変を形成することを特徴とします。この疾患には、涙腺・唾液腺炎(ミクリッツ病、図1)、自己免疫性膵炎、硬化性胆管炎、尿細管間質性腎炎、間質性肺炎、炎症性動脈瘤、肥厚性硬膜炎、自己免疫性下垂体炎、Kuttner腫瘍、Riedel甲状腺炎、前立腺炎などが含まれます。2011年にIgG4関連疾患包括診断基準が各臓器別の診断基準とともに発表され、2020年改訂されました。この診断基準の特徴は病理所見を重視していることで、鑑別の難しい疾患を除外することが重要です。治療には副腎皮質ステロイド薬(プレドニゾロン)が有効です。
当科では、IgG4関連疾患の臨床的特徴、低補体血症やTARC(アレルギー関連物質)の関与、超音波検査やPET/CT所見等についての研究結果を報告しています。
(文責:折口智樹)
自己炎症性疾患
自己炎症性疾患は自然免疫の活性化で発症し、そこには自然免疫の活性化に関わる遺伝子の変異や多型が深く関わり、病型は活性化される分子群により分類され、近年も新たな疾患遺伝子の同定が続いています。インフラマソームは活性化を受ける分子群の一つで、その中のパイリンインフラマソームの調節が上手く行かず発症するのが家族性地中海熱で、最も多い自己炎症性疾患です。家族性地中海熱やTNF受受容体関連周期性症候群などは疾患遺伝子や発症機序がわかって来ましたが、一部の自己炎症性疾患は遺伝子の変化と発症は必ずしも一致せず、今後の研究の発展が期待されます。自己炎症性疾患は自己抗体や感染を認めない炎症として鑑別に上がり、発熱にもパターンがあり、例えば家族性地中海熱では周期性発熱と発熱時の胸痛、腹痛、皮疹などの随伴症状があります。
疾患遺伝子の遺伝子診断は有用ですが、臨床兆候も大切で、家族性地中海熱に関しては、臨床診断が重要となります。
家族性地中海熱であれば、コルヒチンが治療の第一選択となりますが、副作用で内服継続が難しい場合や、無効な患者さんに対しては、インフラマソームの活性化によりIL-1βという炎症性サイトカインの過剰産生が病態に重要であることがわかり、IL-1βの抗体であるカナキヌマブ(商品名:イラリス)が有効です。
家族性地中海熱 MEFV遺伝子解析
VEXAS症候群UBA1遺伝子解析
自己炎症性疾患は新たな知見が蓄積されつつある領域で、当科では全国より自己炎症性疾患(家族性地中海熱、VEXAS症候群等)の症例相談および、次世代シーケンサーを用いた遺伝子診断を行っています。また、家族性地中海熱の発症原因や予後予測に関連する研究をおこなっています。(文責:古賀智裕)
血管炎症候群
全身の様々な血管に炎症が起こることで多彩な臓器障害を引き起こす疾患で、炎症が起こっている血管のサイズにより、大型血管炎(高安動脈炎、巨細胞性動脈炎)、中型血管炎(結節性多発動脈炎など)、小型血管炎(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、多発血管炎性肉芽腫症、顕微鏡的多発血管炎など)に分けられます。発熱、全身倦怠感、体重減少などの症状に加え、炎症を起こしている血管のサイズにより、痛み、咳や息苦しさ、むくみ、皮疹、しびれなどの様々な症状が起こります。長らく副腎皮質ステロイド剤による治療が行われてきましたが、近年はトシリズマブやリツキシマブといった新たな薬剤が使用できるようになり、疾患を十分に抑えられるようになってきています。当科では、血管炎症候群の患者さんの遺伝子の型や血液中の炎症を起こすサイトカインなどの蛋白質を測定することで、疾患を区別したり、治療の効きやすさや、疾患を抑えた状態を長く保つことができるかを予測することができないか研究を進めています。(文責:福井翔一)
キャッスルマン病
キャッスルマン病は多発性のリンパ節腫脹と炎症反応高値を認め、病因として免疫異常や遺伝的な要因、ウイルス感染、腫瘍などの報告がありますが、詳しいことはまだわかっていません。IL-6をはじめとする炎症性サイトカインといわれる物質が過剰に産生されることが病態と深く関わっており、類縁疾患として、全身の体液貯留(胸水や腹水)、腎機能障害、血小板減少などを伴うTAFRO症候群があります。
症状としては発熱や全身のリンパ節腫脹、倦怠感などの非特異的な炎症症状を認めます。全身の体液貯留(胸水や腹水)、腎機能障害、血小板減少などのTAFRO徴候を伴う場合もあります。
診断は腫脹したリンパ節からの病理組織所見を中心に診断します。また、悪性腫瘍やウイルス感染などの感染症、全身性エリテマトーデスなどの自己免疫疾患、IgG4関連疾患などの類似した症候を呈する疾患との鑑別が重要となります。TAFRO症候群の兆候はキャッスルマン病と類似する部分がありますが、キャッスルマン病の基準を満たさないものをTAFRO症候群と診断します。
キャッスルマン病とその周辺疾患
キャッスルマン病にIL-6という炎症性サイトカインの過剰産生が大きく関わることが判明し、抗IL-6レセプター抗体であるトシリズマブ(商品名:アクテムラ)が治療の第一選択となります。その他に副腎皮質ステロイドやその他の免疫抑制療法を使用することがあります。TAFRO兆候を伴うキャッスルマン病やTAFRO症候群はしばしばトシリズマブに抵抗性で、新たな治療薬の開発が進められています。
当科ではキャッスルマン病研究班の代表として、また九州での拠点病院として、キャッスルマン病やその類縁疾患の検体を全国から収集して疾患の原因や予後予測に関連する研究をおこなっています。また、海外の研究機関とも協働しています。(文責:住吉玲美)